32.異世界勇者・陸とおっさん―12
「そう、だ。私も、異世界勇者による被害を受けたことがある。だから少し……昔を思い出した」
「申し訳ないッス」
「君が謝ることじゃない」
「いや、そうじゃなくって……きっと、それをやったのは、俺らの知り合いなんス」
やはりそうなのかと、グルゥは複雑な感情でゲンロクを眺める。
「君も……同じようなことをしたことがあるのか?」
「俺らはないッス。でも、俺らも他の異世界勇者と同じ境遇なら、そういうことをしていたかもしれない。俺らが手を汚さずに済んでいるのは、妹のミクの、チートスキルのおかげなんス」
そう言って、ゲンロクはチラリと村の方を見やる。
村では、献血と称してミクが採血を行っている。
「俺らはああして、自分達が生きるための糧になるフォルってものを集めてるッス。だけどきっと、他の異世界勇者にはあんな風にフォルを集める力はない。だから、この世界の魔人の子供を捕まえては、ゲームマスターに送ってるんス」
「そのゲームマスターっていうのは……何者なのだ?」
「それは俺にも分からないッス。実際に会ったこともないし、ただ裏で、俺達をこんな狂ったゲームに参加させていい気になってるヤツがいるってのは確かで」
グッと拳を握り締めるゲンロク。
その目は、現状を変えられぬ自身の無力さに、深い怒りを抱いているようだった。
「だからグルゥさんには……お願いしたかったんス。他の異世界勇者に会ったらこんな馬鹿げたことを止めさせて欲しいし、いつか、ゲームマスターとやらを倒す算段が出来たら、グルゥさんみたいな強い男の力を貸して欲しいッス」
ゲンロクの申し出を断る理由は、グルゥには無かった。
分かった、と力強く頷いたグルゥは、ゲンロクと固く握手を交わした。




