4.イモムシとおっさん―3
「うわあああああああぁぁぁ最悪だああああああああああああああぁぁぁ!!」
発狂したキットは近くの木に向かって自ら頭を打ちつける。
ええ……とグルゥはドン引きしていた。
「そうだよな、こんなだからオレ、女なのに盗賊のグループに回されたんだよなっ! 分かってる、もう十分分かってるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「こ、こら! 自分で自分を傷つけるのはやめなさい。……ほら、落ちたぞ、これ」
グルゥはキットが落とした赤のキャップを拾ってやると、その頭にそっと優しく被せてやった。
そう言われてよくよく見ると、キットの胸は平坦で何の膨らみもない、まな板の状態だし、汚れた金髪はボサボサに伸びきっていて、女性と判断出来る要素が何一つなかった。
「だってお前、他の子からはキット兄ちゃんと呼ばれてなかったか?」
「盗賊をやるのに、自分から女だってバラすようなヤツはいないだろ。男のフリをして襲えって、そう教え込まれてたんだ」
なるほどと、合点がいったグルゥはポンと手を打った。
自らの性別を明かしたキットは、少し恥ずかしくなったのか、グルゥの前でもじもじと体を捩っていた。
少し悪いことを言ってしまったと思ったグルゥは、しゃがみ込み、キットを視線を合わせた上で、その目に溜まった涙を人差し指で拭ってやる。
「……でっかいな、おっさんの手」
「それくらいしか取り柄がないからな……はは」
「なぁ、おっさん。また一つ頼みごとをしていいか」
もちろんだ、と言ってグルゥはキットの頭をくしゃくしゃに撫でた。
デリカシーのないこと言ってしまった分、少しでもキットが笑顔になることをしてやりたいと、素直にそう思っていた。
「そ、それじゃあ、その……」
グルゥの手に押され、ふらふらとするキット。
意を決したようにグルゥの大きな手を掴むと、ついに、自分の思いを伝えることにした。




