32.異世界勇者・陸とおっさん―11
ゲンロクはキリッと真面目な顔に戻ると、突然、グルゥに対して頭を下げる。
「グルゥさんを男と見込んで、頼みがあるッス」
いきなりの展開に、グルゥは驚いてゲンロクの顔を上げさせる。
「ど、どうしたんだ急に? もちろん、君の頼みなら出来る限りは応えてやる」
「そ、そうッスか。そんな風に即答できるなんて、やっぱり、グルゥさんは俺の目標としている“勇者”に近いッス」
「……勇者?」
不器用な少年から飛び出した言葉にしては、随分突拍子がないものだと、グルゥは少し訝しく思った。
すると、そんなグルゥの気持ちを察したのか、ゲンロクは自ら正体を明かした。
「はい。俺と、向こうで怪我人の手当てをしている妹のミクは、異世界勇者なんス」
「異世界……勇者……だと……!?」
その言葉を聞くだけで、グルゥは血液が沸騰しそうになるくらいの怒りを感じた。
異様な気配を感じたのか、ゲンロクはハッとグルゥから離れて、戦いの構えを取る。
だが――グルゥは思い直した。
彼のような立派な行動をする若者が、アキトと同類のわけがないと。
何か事情があるのだろうと……怒りに沸き立つ感情を鎮める。
「やっぱ……嫌われてるんスね。異世界勇者ってのは」
「い、いや、そんなことはないさ。少し、驚きはしたが――」
「殺気で分かるッス。グルゥさんが、異世界勇者を憎んでるってこと」
ゲンロクは悲しげに目を伏せる。
余計な誤魔化しはするべきでないと、グルゥは自らの言葉を反省した。




