32.異世界勇者・陸とおっさん―10
消火作業も終わり、怪我人の手当ても済んだ後。
「自分はゲンロクっていうッス。あんたの名前は?」
礼がしたいと、グルゥは少年――ゲンロクに呼び出され、村から少し離れたところで話をしていた。
何故、自分ひとりだけ呼ばれたのか、グルゥは若干不審に思っていたが。
「グルゥだ。しかし、若いのによく勇気があるな、君は。なかなか出来ることじゃないよ、偉いと思う」
グルゥが素直に褒めると、ゲンロクは無表情のまま、ウッスと一言だけ返した。
喜んでいないのかと思えば、人差し指で鼻の下を擦るあたり、意外と照れているのかもしれない。
「困っている人を助けるのは当然のことッスから」
「……っ! 本当に見上げた男だな、君は! 頑張っている若者を見ると、おじさんは応援したくなってしまうぞ」
グルゥがゲンロクの頭をわしゃわしゃと撫でると、ゲンロクはビックリして、数歩後ずさった。
「こ、子供扱いは勘弁して欲しいッス」
「はは、悪い悪い。君があんまり立派なことを言うからだな。ご両親の教えが、素晴らしかったんじゃないか?」
「……親父はもう、この世には居ません。俺は道場をやってる叔父さんに引き取られて、そこで、弱きを助け強きを挫く男になるんだと、教えられたッス」
「そ、そうなのか、悪いことを聞いたな。だがきっと、その叔父さんはとても立派な方なのだろう」
ゲンロクは今度は分かりやすく嬉しそうな顔をした。
どうも、自分が褒められるのは苦手な性格のようである。




