32.異世界勇者・陸とおっさん―9
「こんなとこで……すまねぇ……ミク……!」
酸素が薄くなり、徐々に意識が白くなっていくのが分かる。
膝をついた少年に追い討ちをかけるように、頭上から燃え盛る木材が降り注ごうとしていた。
「…………う…………?」
覚悟を決めた少年だが、来るはずの痛みはいつまでもやって来ない。
うっすらと目を開けると、そこに居たのは見上げるような巨躯の大男だった。
「よく頑張ったな……! 後は、私に任せなさい」
その大男――グルゥは炎に巻かれながらも、降り注ぐ木材を拳一つで粉々に粉砕して、ここまで辿り着いたのだった。
こんな危険な現場を子供にだけ任せられないと、結局グルゥも水を被り、中に突入したのである。
「う……勇……者……?」
少年は朦朧とする意識の中で、グルゥの姿を見て、そんな言葉を口走る。
グルゥは少女と少年、二人を両脇に抱えると、降り注ぐ木材を蹴散らながら外に戻るのだった。
***
外に戻ったグルゥを待ち構えていたのは、「おお!!」と救出劇に沸く観衆の歓声――よりも先に、「親父っ!!」と心配でいっぱいだったキットの出迎え――よりも先に、
「にぃにっ!!」
長い黒髪を一本の三つ編みにした、少年と同じくらいの年頃の少女だった。
自分を押しのけて少年に駆け寄った少女を見て、キットの目が点になる。
いったいどういうセンスなのか、白い割烹着を着たその少女は、気を失っている少年の腕を掴み、にぃに、にぃにと何度も叫んでいた。




