32.異世界勇者・陸とおっさん―8
民家の中は一面、炎によって真っ赤な世界に変わっていた。
坊主頭の少年は、“鋼鉄化”した体を引きずるように歩きながら、取り残されたという娘を探していく。
「くっそ……火傷しないのはいいけど、この体が溶けちまう……!」
熱された少年の体は、灰色から徐々に熱を帯びたオレンジ色に変化して、少しずつ融解を始めていた。
「相当、炎に相性が悪いじゃねぇか……何がチートスキルだよ、使えねぇ……!!」
ふらふらになりながらも、少年の耳に届いた少女の泣き声。
その方向に向かうと、部屋の奥に、人形を抱えて泣き叫ぶ少女の姿があった。
「チッ、手間かけさせんなよ……ほら……!!」
少年は手を差し出そうとして、その瞬間に気が付く。
体を同じように、オレンジ色に熱された自身の右手。
このまま少女を掴めば、自分の手により少女を傷つけてしまうことになると。
「……マジで不便な能力だな、クソッ!!」
悪態をつきながらも、少年に迷っているような時間はなかった。
“鋼鉄化”を解いた少年は、少女の体を覆うように抱えると、真っ直ぐに来た道を戻ろうとした。
だが運悪く、その瞬間に焼けた木材が崩れ落ちて、玄関への道が閉ざされてしまう。
「マジかよ……!?」
腕の中で泣き叫ぶ少女。
“鋼鉄化”を解いたせいで、自身の体も炎に焦がされて、少年の体からは見る見るうちに力が失われていった。




