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32.異世界勇者・陸とおっさん―6

 ずてん!! と自分の髪を踏んづけて転ぶミルププ。

 これで三回目だ。


 その度に起こすのが面倒になったグルゥは、手っ取り早くミルププを抱えていくことにした。


「……ぁ…………ごめ…………」


「ったく、少しは切ったらどうだ!? この伸びっぱなしの髪!! 動くのに邪魔だし、衛生的にも良くないだろう!」


 ついきつく当たってしまうグルゥだが、それも無理はないだろう。


 ヌエツト領内の集落の一つが、異世界勇者に襲われている。

 風雲急を告げるその情報は、グルゥにとって、妻を殺され娘を連れ去れたあの光景を呼び覚ますのに、十分なものだった。


 御者は異世界勇者と遭遇するのを嫌い、近くにまで馬車を走らせてくれなかった。

 よってグルゥたちは、走って村まで駆けつけたのだ。


 しかしそこでグルゥたちを待ち構えていたのは、思いもよらぬ光景だった。


「これで、一丁あがり……っと」


 坊主頭の少年が、武装した集団を担ぎ上げ、一箇所に集めてロープで縛り上げている。

 異世界勇者は? とグルゥの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


「当然のことをしたまでッス。それに俺に礼を言う暇があったら、この火事を早く鎮火させた方がいいッスよ」


 村人と思われる『サタン』の魔人が、坊主頭の少年に礼を述べている。

 まさか、もう異世界勇者は退治されてしまったのだろうか?


 呆然とするグルゥの耳に、女性の悲痛な叫び声が入ってきた。


「誰か助けて!! 燃えた家に、まだ娘が取り残されているの!!」

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