32.異世界勇者・陸とおっさん―5
舌先の割れた男は、突然立ち塞がった男に対し、剣を構えて威嚇した。
「あァん? なんだテメー? こっちは異世界勇者だぜ? 邪魔するなら、テメーもバラバラの細切れにしてやろうか」
「やれるものなら……やってみろ」
男は丸腰だ。
対する舌先の割れた男には剣がある、リーチでは圧倒的に有利だ。
「へぇ……その生意気な口、二度と聞けないようにしてやるぜ!!」
負ける要素など無いと判断したのだろう。
舌先の割れた男は、構えた剣を水平にして男に斬りかかっていった。
男は逃げるわけでもなく、ただ憮然とした表情で舌先の割れた男を睨みつけている。
そして――その首筋目掛けて、真横に剣が薙ぎ払われた。
「ハッハァ!! 生首一丁、出来上がりだぜッ!!」
ガキィィィンと、鋭く甲高い音が響く。
確かに命中したその剣先は――真っ二つに割れて、空中に舞い上がっていった。
「…………は?」
「蚊でも止まったか。少し痒いような気がしたが」
男はポリポリと、剣が命中した首筋を掻く。
その皮膚の一部が灰色に変色していたが、バチバチと青い火花が散って、元の肌色に戻っていった。
が、そのような変化には、恐慌状態の男は気付かない。
「な……なんで、どうして、確かに命中したはず……?」
「なんで? どうして? ……その答え、俺が教えてやろう」
“鋼鉄化”した男の拳が、舌先の割れた男の腹部に、抉るように突き刺さった。
「俺が、異世界勇者だからだ……ッ!!」




