32.異世界勇者・陸とおっさん―4
「異世界勇者だ! 異世界勇者の襲撃が来たぞー!!」
村の中ではそんな怒号と共に、人々の泣き叫ぶ声が響き渡っていた。
頻発する異世界勇者による襲撃事件は、既に『イルスフィア』の社会問題になりつつあった。
散々注意喚起はされているものの、実際に異世界勇者に襲われてしまえば、その圧倒的な力の前に魔人たちは蹂躙されるばかりである。
決して力で立ち向かおうとするな。
異世界勇者が来たら、まずは子供から逃がせ。
これが、もはや『イルスフィア』の標語になりつつある、異世界勇者への対策方法だった。
「へっへっへ! そうだお前ら、逃げろ逃げろ! でないと、異世界勇者様がお前ら全員殺しちまうぜー!!」
そう言って剣を振り上げるのは、髭を生やした肌の浅黒い男である。
一見すると普通の人間に見えるその男には、“舌先が二つに割れている”という特徴があった。
「ボス、あっちの民家からたんまり奪ってきましたぜ」
「そうかそうか。鍵も掛けずに逃げ出すなんて、異世界勇者さまさまだな。そら、あっちの家のガラ空きみたいだぜ」
「へいっ」
舌の割れた男は、集まってきた何人かの男に指示を出し、強奪行為を続けていた。
手下と思われる男達は、黒角が生えていたり、猫耳が生えていたり、足が蹄だったり。
様々な種族特徴を持つ者たちの、集まりのようである。
「そこまでだ」
炎に包まれた村の中、吹き荒ぶ風に立ち向かうように仁王立ちする、一人の男の姿があった。




