32.異世界勇者・陸とおっさん―3
「そ、そうだな……おい、ミルププ」
サリエラの目に不穏なものを感じたグルゥがミルププを剥がそうとしても、その小さな手は意地でもグルゥの腕を離さなかった。
「ぉじ様はヌエツトで唯一、ミルププに優しくしてくれた……だから今度は、置いてかれたくなかったの」
「気持ちは嬉しいんだが、ミルププ。あんまりくっつかれると、私も動きにくいというか」
「……ぉじ様は、ミルププのこと嫌いなんだ」
拗ねるミルププに、グルゥはそんなことない、と慌てて弁解する。
「じゃぁ……ぃぃじゃん」
体を全て委ねるように、ミルププはグルゥの巨体に寄りかかった。
「ちょ……そういうのはオレの役割だろ!?」
「わ、私だって普段は我慢してるのに……!!」
二人のよく分からない嫉妬の感情が爆発しそうになった、その時である。
突然、急ブレーキがかかり止まる馬車。
反動でグルゥ達も吹き飛ばされるが、グルゥはミルププの体をしっかり抱きとめ衝撃から守っていた。
「だ、大丈夫かお前達!?」
受け止められなかった二人は、馬車の中でそれぞれ独創的なポーズで引っくり返っている。
「何があったんだ?」
『サタン』の御者に話を聞くと、彼が指を差したのは、近隣の村から噴きあがる黒煙だった。




