4.イモムシとおっさん―2
「ほ、ほら、おっさんがその気なら、オレのこと……好きにしてもいいんだぜ」
顔から火が出そうなほどに赤面し、グルゥから目を逸らしながらキットは言った。
そしてチラチラと、グルゥの様子を窺うように上目遣いの視線を送ったが、
「ふにゃっ!?」
グルゥから返ってきたのは、脳天への拳骨一つだった。
「な、ななな何すんだよ!? 暴力反対って言ってただろ!」
「これは教育的指導だ、バカモノ。何を急に、気色の悪いことを言っている? 冗談は休み休み言え」
想像以上に頭ごなしに叱られて、キットはびゃあああと泣き出してしまった。
そうなると、ばつが悪いのはグルゥの方だ。
「え? す、すまん。そんなに強く殴ってしまったか? 私も冗談のつもりだったのだが。本当にすまん、何しろこの図体だ、力の加減が下手なもので……」
へこへこと謝り出したグルゥに対して、キットは首を左右に振った。
どうやら謝るポイントが違ったらしい。
年頃の子供は本当に何を考えているか分からんと、グルゥはじっとキットを観察する。
「おっさん、やっぱり……ずっと気付いていなかったんだな」
「な、何がだ? 何か気に触るようなことを言ったのなら謝る、すまん」
「分かってないのに謝るなよ、バカヤロー」
すぐに謝ってしまうのは、二十五年間、大領主の下で経理として働き続けた、その時からの癖だった。
「す、すまん。分かってないのに謝ってすまん」
「だから、もう……。……あー、いいや。多分黙ってたら、ずっと気付かないままだろうし。ほら」
キットは強引にグルゥの手を取ると、その大きな手のひらをぎゅっと自分の胸に押し付けた。
「女なんだよ、オレ。……これで分かっただろ?」
グルゥの頭の上に疑問符が並ぶ。
正直、ここまで思い切ったことをされても未だに分からなかった。




