31.血統とおっさん―8
玉座の間に、一人の魔人が入ってくる。
「じゅんび……できた……おじぃさま……」
それは小さな体に小さなリュックを背負ったミルププだった。
嫌な予感は、グルゥの想定し得る中で最悪に近い形で的中したらしい。
「い、いや、その……なんで、ミルププが?」
「知るか。儂が聞きたいくらいだ。とにかくお前と一緒に行くと、ミルププが言って聞かんのだ」
「そんな! これから先には特に危険な旅になることが予想されます、そんな中に、ミルププを連れて行くなんて――」
当然、抗議をしようとしたグルゥだが、ちょこちょこと歩み寄ってきたミルププの尻尾が、グルゥの尻にグサッと刺さった。
「あふン!?」
「……きけん……だから……ミルププがつぃてくの…………。……ぉじ様たちだけじゃ、知識不足だょ……」
俯いて、もじもじしながら言葉を発するミルププ。
確かに、ミルププの卓越した知識は旅には役立つだろうが――
「お前……長距離歩けるのか?」
「乗り物…………乗れば…………だいじょぶ…………」
「そんな金どこにあるんだ!? 確かに街道を飛ばせば早いだろうが、そんな長距離の移動をするには、相当な金額が――」
ミルププはグルゥの前でリュックを下ろすと、紐を解き、中を見せ付ける。
その中には、目も眩むほどの大量の金貨が積まれていた。
「“異世界航海士”のぉしごとで稼いだょ…………使ってぃぃから」
「がっはっは!! こりゃグルゥ、お前さんよりもミルププの方が甲斐性があるかもな!!」
硬直したグルゥを、デルガドスは豪快に笑い飛ばした。
こうして、グルゥの返事も聞かぬまま、半ば強引にミルププも旅に同行することになったのだった。
第6章 故郷とおっさん ―完―




