31.血統とおっさん―6
「……忌み……子……?」
その言葉のニュアンスは、キットにも伝わってしまったようだった。
「ま、待てミルププ!」
グルゥは慌てて話を遮ろうとしたが、勢いづいたミルププの話は止まらない。
「『マモン』の国に行けば何かしらの手がかりはあるだろうね。“形質反転”をした子が生まれたというのなら、それは必ず王の耳に入る。もしかしたら、キットはそれで『アガスフィア』へ追放されたのかもしれない。もっとも、国とってはキットは災厄を招きかねない存在だから……その姿のままで、入国できるかも分からないけど」
「災厄……? オ、オレって、邪魔な存在だから『アガスフィア』に追放されたってことなのか……?」
「その可能性は……ぃなめ……なぃ……」
話し疲れたのか、ミルププの目がトロンと落ち始め、元の無気力な話し方に戻ってしまった。
「でも……大丈夫……だょ……ミルププも…………ここじゃぃらなぃ子…………ともだちに……なれるね……」
そう言って、ミルププはぺたりと垂れてしまったキットを耳を、優しく撫でる。
自分より小さなミルププだが、この時だけは年相応のお姉さんのような気がして、キットは黙ってそれを受け入れた。
「つか……れた。ぁまぃの…………たべたぃ…………ねむ………………ぃ…………」
ミルププは突然その場に崩れ落ちて、グルゥは慌ててその体を抱きかかえた。
腕の中のミルププは、小さな寝息を立てて、すーすーと眠ってしまっている。
「だ、大丈夫なんですか?」
「集中力を使い果たしたのだろう。頭を使いすぎると、ミルププは眠ってしまうんだ。……しかし」
グルゥの頭の中には、ミルププの残した“忌み子”という言葉が離れない。
キットの生い立ちを追う手がかりを掴むことは出来たが、果たして真実を知ることは、本人にとって幸せなのだろうかと――
グルゥは、力無く垂れたキットの尻尾を見ながら、不安を隠せずにいるのだった。




