1.孤児とおっさん―2
自分を取り囲む敵意の数が、一つ、二つ……総勢で五つ。
本当に『アガスフィア』は治安が悪いと、グルゥはいい加減、嫌気が差していた。
「出て来い。……この私の屈強な体を見て、怖気づくことなく戦う気があるのならな」
そう言って、グルゥはおもむろに腕捲りをする。
露わになったのは、丸太のような太さの強靭な二の腕だ。
汗で濡れた浅黒い肌が光って、隆起した筋肉が尚更力強く見える。
――恥ずかしい、とグルゥは内心思っていた。
「フン、何が筋肉だよ、バカバカしい。こっちにはコレがあるんだぜ? 関係ねぇよ」
最初に姿を見せたのは、赤いキャップを逆さに被った子供である。
その手には抜き身のダガーが握られ、太陽の光を反射しキラキラと輝いていた。
「こっちはな、もう何人もの大人の男をコレ一本で捌いてんだよ。あァ? 分かるか、おっさん。いくら体を鍛えていてもな、武器の前じゃ何の役にも立たないってことだ」
リーダー格の子供の合図で、グルゥを取り囲むように四人の子供が姿を現した。
各々が武器を持ち、その刃を輝かせ、餓えた獣のような目をしてにじり寄ってくる。
グルゥはその光景を見て、目が眩むほどの衝撃を覚えた。
「な、何故だ……?」
あまりの衝撃に、体が震え、目頭にはじわりと涙が浮かんでくる。
「何故、『アガスフィア』では……このような年端もいかぬ子供が、剣を握らなくてはならないのだっ!?」
「あァん!? なに一人でブツクサ言ってんだよ!! まずはこうしてやるぜ、オラァ!!」
リーダー格の子供が、真っ先にグルゥの前へと飛び込んできた。
グルゥの手には何の武器も握られていない。
だが、娘と同じ年頃の子供に拳を振るうなんてことは、絶対にしたくなかった。
「あっ……!?」
結果、ダガーはグルゥの服を突き破り、その腹部に深々と突き立てられた。