30.引きこもりとおっさん―10
ミルププはグルゥに捕まったまま、握り締めた右の拳から、親指をぐっと突き出してみせた。
「……絶対に、外に出たくなかったから……」
「…………は?」
「大事なものを守るため、本懐を達成するまで決して外に出ない、高き志のぉむラースタイル……! …………流行る…………!」
「流行らないし流行らせんわっ!! というかお前、本当に一日中この中で過ごしてたのか!? 食事は!?」
ミルププはちょいちょいと、出入り口の扉の下に付けられた小窓を指差した。
そこから運んでもらったということだろう。
「風呂は!?」
部屋の片隅には、ゴミ袋とタオルが大量に積まれたコーナーがある。
体は拭くだけにしていたのだろう。
「トイレは!?」
「ド変態がッ!!」
おむ――とミルププは言いかけたが、それよりも先にサリエラの平手打ちが綺麗にグルゥの頬に決まった。
グルゥは左の頬を押さえて尻餅をつく。
「何をする!?」
「さすがに、レディのトイレ事情を聞くのはダメですよっ!? 冷静になってください!?」
サリエラに突っ込まれ、グルゥはでも……と捨て犬のような目をした。
ミルププのおむつから飛び出した黒い尻尾が、笑っているかのように小刻みに上下している。




