30.引きこもりとおっさん―6
身長は百センチ前後、小柄で華奢な体は触れれば折れてしまいそうなほどに細い。
美しい銀色の髪は体を覆うほどに伸びていて、立ち上がろうとした彼女は自分の髪の毛を踏んづけてすっ転んだ。
「お、おい、大丈夫かよ」
まさか自分より小さな少女が出てくるとは思っていなかったため、キットは手を差し出して彼女の体を起こしてやる。
「…………ぁ……………………ぅ…………」
「え? なんか言ったか?」
「……………………と………………」
彼女はぼそぼそと口を動かしているのだが、そのボリュームは余りにも小さく、何を言っているのかまったく聞き取れなかった。
「ええっと、お前がミルププ、でいいんだよな?」
キットに尋ねられた彼女は、何度も首を縦に振ってみせる。
どうやら、この少女がミルププということに、間違いはないようである。
ミルププは手近に落ちていた羊皮紙を拾うと、足でインク付きのペンを掴み、そのまま足で床の上に置いた紙にさらさらと文字を書く。
『人と会うのが久しぶりすぎて、声の出し方を忘れました』
「どんだけだよ!?」
キットに突っ込まれ、ミルププは「あー」とか「うー」とか唸り始め、どうやら声の出し方を思い出そうとしているようである。
「それよりも、親父が大変な状態なんだ! あれ、どうにか解除できないのか?」
その間もこちょばされ続けているグルゥは、そろそろ限界を迎えてきたのか、白目を剥いてぶくぶくと泡を吹いていた。
ミルププは、さらさらと足で文字を書く。
『無理です。泡を舐め取るまで触手くんは止まりません』
事実上の死刑宣告だった。




