30.引きこもりとおっさん―5
「ったく、それくらい……いつも、親父がオレにやってることじゃん」
「うっ」
キットはすっかり腰砕けの状態のグルゥを、呆れたように見ていた。
さりげなく放たれた一言がグサッと刺さり、グルゥは一瞬正気に戻る。
「わは、わはは……頼む、キット……わはは……」
「分かってるって、他でもない親父の頼みだからな。よーい、しょっと!」
準備として屈伸運動をしたキットは、本の海を越えてミルププ(?)の足までひとっ跳びで飛んでいく。
その身体能力の高さに、サリエラは驚いて手を叩いた。
「おい、親父が困ってるんだ。いい加減起きて……ん?」
ミルププ(?)に声を掛けたキットは、その足の指に妙なものが挟まっているのを見つけた。
「これって……ペン……?」
そう、ミルププ(?)の左右の足には、それぞれ一本ずつ、親指と人差し指の間にペンが挟まれていたのである。
そしてそのペン先はキラキラと輝いており、何もない空間に、幾何学的な光の模様が描かれている。
が、キットにとって、それはミルププ(?)が遊んでいるようにしか見えなかった。
「こうしてやる」
突き出されたミルププ(?)の足の裏を、爪を立ててすーっと引っ掻くキット。
その瞬間である。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
大きな声を出して、本の下に埋まっていた彼女は体を起こした。
その耳には完全防音の耳当てが付けられており、どうやら本に埋もれながら本を読むという、贅沢な趣味の時間を過ごしていたようである。
「…………ぁ………………ぇ…………?」
本の山から飛び出して来た涙目の彼女は――まるで精巧な人形のような、キットとサリエラの想像を遥かに超えた美少女であった。




