30.引きこもりとおっさん―2
グルゥは開かずの間の扉を控えめにノックする。
「おーい、いるかー、ミルププ」
返事はない。
しょうがないので、グルゥはもう少し強めにノックをしてみた。
「まったく反応がないですね」
「う、うむ……。お父上は先に話を通しておくと言っていたのだが」
「寝てるんじゃねーの? 入ってみようぜ!」
キットの提案に、グルゥはあからさまに嫌そうな顔をした。
「おーい! ミルププ、私だ、グルゥだ!! 入るぞ!!」
最後にもう一回と、かなり強めのノックと、大きな声で呼びかけてグルゥは中の様子を窺う。
しかしそれでも返事はなく、何かおかしいと、グルゥは思い始めていた。
「も、もしかして具合が悪くなってるとか?」
「うーむ、確かに少し心配になってきたな。ここまでやったのだから、入ってもいいだろう」
そう言うと、グルゥはゆっくり、ゆっくりと扉を押していく。
両開きの扉に鍵はかかっておらず、ヌエツトの中では禁断とされていた世界が、グルゥたちの眼前に広がった。
「わ、わー!?」
「すごい、です……!?」
そこには見渡す限りの本、本、本の山。
棚から溢れ、床にまで広がった無数の蔵書が、塔の中を埋め尽くしている。
「……お、お父様!! あれ!!」
その中でとあるものを見つけたサリエラは、慌てて部屋の中に駆け込んでいった。
――が、一歩踏み出したその時。
「がちょん?」
妙な音がするものを踏んだと、サリエラは自身の足元を見る。




