29.主君とおっさん―6
それはまだ、グルゥが幼く、デルガドスとも面識がない頃だった。
当時から王の座にいた若いデルガドスの耳に飛び込んできた悲報。
それは、領地の村が丸々一つ消し飛んだという知らせだった。
「なんという……ことだ……!?」
現地についたデルガドスの目に飛び込んできたもの。
それは、いつまでも燃え尽きない黒い炎に包まれた、土砂とガレキで埋まった村だった。
「申し訳……ございませんでしたッ。申し訳……っ!!」
敵意を剥き出しにする村民の中央に、地に頭を擦り付けて謝る男が一人。
グルゥの父である。
その隣には、目の中に黒い輝きを煌々と灯した、幼い少年がいた。
***
「すぐにヌエツトで引き取り、争いからは何も生まぬと教え込んできたつもりだったが……それは、間違っていたのかも知れぬな……」
病室のベッドで死んだように眠るグルゥを見ながら、デルガドスは重いため息をついた。
今回、異世界勇者の襲撃を受けた際、グルゥはほぼ無抵抗のまま嬲られたと聞いている。
それは、幼い頃にグルゥが引き起こした“血統の覚醒”の再発を恐れ、自分が意図的にグルゥを武力と引き離していたせいでないかと、デルガドスは責任を感じていたのだ。
時に人が先祖返りを起こすように、魔人には稀に、血統の元となる『魔神』の特性を色濃く発現してしまう者が現れることがある。
普通は使うことが出来ない“黒き炎”を放ったグルゥは、まさに破壊神としての『サタン』の再来になのではないかと、ヌエツトの人間は、心の何処かでグルゥに対し恐れを抱いていた。
だが同時に、二十五年間の経理生活を近くで見てきたデルガドスは、グルゥが誰よりも優しい人間であることも知っている。
「“黒き炎”……いつか、その形質が転じれば良いのだが……」
しかしその望みはついに叶わず、グルゥの“黒き炎”は『アガスフィア』で発現することになったのだ。




