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29.主君とおっさん―5

 その、一瞬の隙をついてのことだった。

 グルゥは自身の左角を掴むと――自らの力で、力任せにへし折ったのだ。


「うがあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 断末魔のようなグルゥの叫びが、玉座の間、いやヌエツト城全体に響いた。

 臣下達は肩をすくめ、目の前のグルゥの凶行を、凍りついたように固まって見ている。


 ポタポタと、折れた角の根元から血が滴る。

 デルガドスは呆然として、足元のグルゥを見つめていた。


「な、何を……何をしているのだ……!?」


「これで……いいんでしょう。これで私にはもう、『サタン』の誇りも、義務もない。私は……『アガスフィア』へ、娘を探しに行きます」


 ここに来て、デルガドスは初めてグルゥの決意の固さを思い知った。

 侮っていた、とすら思っていた。


「暴漢に攫われたのだろう……? ならば、まだ生きている可能性の方が低いかもしれぬぞ……!!」


「それでも……それでも私は、娘を助けたいのです。まだ生きていると……信じたいのです」


 デルガドスに背くように、立ち上がったグルゥは扉の方へふらふらと歩いていく。


「私は『サタン』である前に……一人の父親なのです」


 その言葉に、ついにデルガドスも観念したのだろう。

 今にも倒れそうなグルゥの体を、後ろから肩を貸して支えてやった。


「分かった、グルゥ。……お前の主張は認める。ただし、一つ条件があるぞ」


「条件……?」


「まずはしっかりと休んで、その体を治すことだ。それを守るのなら、“異界航行証明スフィアパス”でも何でも発行してやる」


 それを聞いた途端に、グルゥの体からすっと力が抜け落ちた。


「……すみま……せん。あり……が……」


「グルゥ! おい、グルゥ!! ……ったく、無茶ばかりしおって……!!」


 体力の限界だったのだろう。

 気を失い、腕の中で安心したように眠るグルゥを見て、デルガドスは大きなため息をついた。


「こうしなければ、“黒き炎”は消えぬ、か……」


 デルガドスの脳裏には、グルゥの目の中に見た、黒い輝きがこびりついて離れなかった。

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