29.主君とおっさん―4
「領地を返上したい……だと……ッ!?」
グルゥの申し出を受け、玉座のデルガドスのこめかみに血管が浮かび上がった。
血が滲んだ包帯を巻いたグルゥの姿は痛々しく、いくら回復の早い『サタン』の血統と言えど、まだ怪我が治っていないことが窺える。
「貴様、それがどういうことが分かっているのかッ!!」
「もちろんです……お父上。ですが、我が領地の住民は、異世界勇者の襲撃を受けほぼ亡くなりました。現状を鑑みても、一度お父上に領地を返し、復興を最優先するのが――」
「そういうことではないッ!!」
力任せにグルゥを殴りつけるデルガドス。
グルゥは大きく後ろに吹き飛び、仰向けのまま、顔を押さえて呻いた。
「お前の国の住人は、お前のこと信じ、受け入れ、お前の下で生きると選んだのだぞッ!! それに対しお前は、情けないと思わないのかッ!!」
「思っています……思っているからこそ、私は王として相応しくなかった、そう感じているのですっ!!」
グルゥが怒鳴り返すと、玉座の間の空気がビリビリと震えた。
臣下達は脅えたように、グルゥから距離を取って離れていく。
デルガドスは未だ起き上がれずにいるグルゥを、両足で跨ぐように立つと、グルゥの左の黒角を握り強引に顔を上げさせる。
「ぐっ……」
「お前には『サタン』としての誇りはないのか。例え、片角を失ったとしても、残った角は『サタン』の証だ。貴様には、『サタン』の戦士として勇敢に戦う義務がある」
「そう……ですか……そういうことなら……」
真っ直ぐにデルガドスを睨み返すグルゥ。
その目に宿るものを見て、デルガドスはハッとして手を離した。




