29.主君とおっさん―3
「なんだ? また儂にコテンパンにされたいのか? 次に儂が勝てば、記念すべき一万勝目になるな」
「私は本気で言っているのです。いくら王といえど、私の娘に手を出すのであれば容赦はしない」
賑やかだった会食の場が、一瞬でしんと静まり返った。
…………が、次にグルゥがヒックと大きなしゃっくりをしたことで、張り詰めた緊張の糸がプツンと切れる。
「なんだグルゥよ。酔って気が大きくなっているのか」
「酔ってなどいません!! 私は大真面目に言ってるのふれす!!」
完全に酔っていた。
見た目にはあまり出ないが中身は十分に酔っているパターンだ。
「しかしなグルゥよ。あまり己の感情に固執し続けると、“黒き炎”に取り込まれることになるぞ」
「あ……そ、それって! 親父が口からいっぱい吐いてたやつか!?」
忘れもしない、地獄絵図のような光景を思い返し、キットは大きな声でデルガドスに尋ねた。
再び、しんと静まり返る場内。
グルゥは酔ってなどいない!! と部屋の隅の観葉植物に必死に語り続けている。
「やはりグルゥは……“黒き炎”の力を使ってしまったのだな」
「だ、だから何なんだよ、“黒き炎”って。街がぶっ壊れて大変だったんだぞ」
「そうだな。恐らく君たちは、これからもこの男と共に旅を続けるのだ。“血統の覚醒”については、話しておいた方が良いだろう」
そしてデルガドスが話し始めたのは、グルゥの過去――アキトに妻を殺され、娘を奪われ、満身創痍の姿でヌエツトに運ばれてきた後の話だった。




