28.里帰りとおっさん―6
「逃げ帰ってきたと、そう言われれば確かにそうかもしれません。ですが、ようやく見つけたノニムの手がかりとなる人間が、『イルスフィア』に連れ去られてしまったのです。ここに来たのは、それを追うための足掛かりにするためで――」
「笑止ッ!! 貴様、ここを出る際に自身がなんと言ったのか、忘れたのかッ!!」
気を抜いていたら吹き飛ばされそうになる、デルガドスの怒号だった。
グルゥはぐっと拳を握り締め、その罵倒に耐えている。
「儂の領地を分け与え、一国の主にしてやった恩を忘れッ!! 『娘を連れ戻すまで、この国には戻らない、だから領地は返上する』とほざきおったッ!! 一度手にした国を捨てるということが、男としてどれだけの恥であるか、分かっておらんのかッ!!」
「サリエラ……なんかあいつ、ムカつくな」
一歩前に進み出ようとしたキットを、サリエラは慌てて押し止める。
「ちょっと! 余計なことをしては、逆にお父様に迷惑が掛かるだけですっ! ……まあ、その意見にはやはり大きく賛同させて頂きますが」
「ここまで言われて黙ってるなんて、親父も親父だぜ。一言くらい言い返したって」
そう言って、キットが口をもにょもにょと動かしていた時である。
「その話は……以前、ここを出る際にもう終えたはずですよ」
少しだけ尖ったグルゥの言い方に、キットとサリエラはおっ? と顔を見合わせた。
「ほう……この儂に対し口答えをするというのか」
「王の方こそ、以前に終えた話を蒸し返すというのは、それこそ男らしくないのでは?」
が、グルゥの返答が想像以上のものになってきたのを見て、二人の顔は徐々に青ざめていった。
案の定、顔を紅潮させたデルガドスは、玉座から立ち上がると一歩を大きく踏み出した。




