28.里帰りとおっさん―5
デルガドス・ヌエツト・ガグギリム。
二メートル五〇センチもある巨躯を持つその男は、『イルスフィア』の七大国の一つ“ヌエツト”を統治する王であった。
御年七十歳を越える老骨の身ではあるが、今も日々の鍛錬を欠かさぬその体は、余計な脂肪など無く隆々とした筋肉により武装されている。
黒角の色はやや落ちて今では焦げ茶色の角になっていたが、その眼は精悍さと老獪さを併せ持つ。
トレードマークは長く伸びた白髭で、その見た目と体の大きさから、“白鯨”の二つ名で呼ばれることもあった。
屈強な『サタン』の血統の男が集うヌエツトを、圧倒的な腕力とカリスマ性でまとめあげる男の中の男、それがデルガドスなのだ。
――そして、そんな男が、たった今、グルゥの前に居た。
「それで、ここまでおめおめと逃げ帰ってきたわけか」
デルガドスの巨体から発せられる声によって、玉座の間の空気がビリビリと揺れる。
異常な緊張感に包まれた玉座の間に、グルゥとキットとサリエラの三人は、謁見に来ていたのだ。
もっともこれは、グルゥ自身が望んだわけではなく――当然、本人も報告に行くべきだとは考えていたが――王都ヌエツトに辿り着いた直後、その名を名乗ったグルゥは、城の人間によって真っ先にここまで連れて来られていた。
「なんでみんな、あんな怖い顔をしてるんだよ」
「しっ! 余計なお喋りはしちゃいけません! ……ですが、その疑問には大きく賛同します」
グルゥの後ろに立たされているキットとサリエラは、小声でそんなやり取りをしていた。
ピリピリとした空気の一つの要因は、グルゥらを取り囲む家臣達の表情だ。
みな、一様に暗い顔をして、デルガドスと視線を合わせないように目を伏せている。
取って食われるんじゃないかと、キットは思った。




