28.里帰りとおっさん―3
「――ほーん、俺様が居ない間に、そんなことがあったのか」
これまでの事情を、グルゥは手短にミルププに話していた。
『ベリアル』の血統の男に攫われたミノンを、探しに行く必要があること。
また、キットもサリエラも怪我から復帰したばかりで、あまり大きな負担をかけられないことも説明した。
キットの火傷と怪我は、ミノンがもたらした慈愛の光の雨により、ほぼ完治をしていた。
サリエラは崩れたガレキに押し潰されていたものの、とっさにミノンがサリエラをフォルの結晶の中に閉じ込めたことにより、あの騒ぎの中無傷で居ることが出来たのである。
「本当に、何者だったのでしょうね……ミノンは」
「“スフィアキー”と、ウルヴァーサって名乗った男は言ったんだってな。……それが本当なら、もしかしたら……」
グルゥの手のひらの上で考えるミルププと、一緒になって話し込むサリエラ。
もう少し距離が近い方が良いかと、グルゥは善意で手を差し出したが。
「ホギャゥ!?」
「……おいおい、いくら虫が苦手だからって、オレの後ろに隠れるか? ふつー」
それはサリエラにとって、逆効果だったらしい。
「とにかく。……今や私は、『アガスフィア』の中では公国を一つ滅ぼした大罪人なのだ。追っ手が来る前に、早く『イルスフィア』に戻りたい」
「追っ手? そんなもの、本当に来たのか?」
「いや、実際には会ってないが……そうなるだろ、普通。サグレスが今後の復興について混迷している間に……言い方は悪いが、逃げてしまいたい……のだ」
言いながら、グルゥは本当にそれでいいのか、自分自身迷っていた。
出来ることなら、自分も復興に参加して犯した罪を償いたいが……サグレスに残れば、グルゥに待っているのは処刑という結末だろう。
「ふーん……。だけど、世界はそんなに、単純じゃないかもしれないぜ」
「どういう意味だ?」
「こっちの話。ま、おっさんが望むのなら、俺様に出来るのはさっさと異世界転移の儀式を執り行っちまうことだけだな」
そう言って、ミルププはそそくさと自分の作業に入ってしまうのだった。




