28.里帰りとおっさん―2
深い森の中、先頭を行くグルゥは汗だくになりながら茂みを掻き分け、やっとの思いで前に進んでいた。
「ホギャーーーーーーーーーーーーーーーー!! へ、ヘンなムシが私の腕の上に!!」
「カメムシだろ……それくらいで驚くなって。オレ、いい加減、耳が痛くなっちゃいそうだ」
そう言って、キャップから出している耳を両手で押さえるキット。
文句を言われたサリエラは、ぷくーっと頬を膨らませて怒りを露わにした。
「さっきからあちこち蚊に刺されて、痒くてたまらないですし。本当に、こんな山奥まで来る必要があるんですか?」
「異世界転移には通常“異世界航海士”が同行する決まりだ。が、不慮の事故などで“異世界航海士”が居なくなり戻れなくなった場合を想定して、緊急時に待ち合わせをする場所を決めている」
グルゥの説明を聞いて、サリエラはなるほど、と一瞬納得しかけたが、
「いやいや、それじゃあ結局、そこに“異世界航海士”は居ないじゃないですか。別人がスタンバイでもしているんですか?」
「昔はそういう時代もあったそうだが……今は“異世界航海士”は貴重な存在で、とにかく渡航者を行き来させるのに忙しいそうでな。通常は、“使い魔”に、自分の代わりとして異世界の案内を行わせるんだ」
「つまり、本人ではなく、そのペットのようなものがそこでスタンバイしているのですね」
ようやく合点がいったようで、サリエラは大きく頷いていた。
「そういうことだな。そしてその待ち合わせ場所は“ラグランジュ・ポイント”と呼ばれている。“異世界航海士”しか知ることがない、二つのスフィアを繋ぐための、力場が安定した場所のことだ」
倒れた木々を退かし、グルゥたちはようやく開けた場所に出て来た。
すると、切り株の上で鎮座していたのは――
「待ちくたびれたぜ、ったく」
口の悪い紫色のイモムシ。
「ミ、ミルププっ!?」
疲れていたはずのキットの顔が、一瞬で明るい表情に切り替わった。




