????レポート その1 『世界』について
古来より、世界には二つの『スフィア』があるとされてきた。
一つは『アガスフィア』。
豊かな緑や清らかな水、様々な自然環境を擁する資源の豊富な世界で、人間を中心に様々な種族が暮らす、穏やかな世界だ。
三割の大地と七割の海で構成され、その大自然の中には人間が未踏の地も多くあるとされている。
そしてもう一つが、『イルスフィア』。
先述の『アガスフィア』とは対照的に、こちらの世界には自然が少なく、赤茶けた大地の多くはひび割れ、作物の育ちにくい不毛の地になっている。
こちらは七割の大地と三割の海で構成され、存在する水の量が極端に少ないのも、自然が少ない理由の一つだろう。
かつては『イルスフィア』にも豊かな自然があったことを示唆する、過去の遺物も発掘されているが、その自然が衰えたとされる理由は、七体の『魔神』にあった。
七つの罪を背負いしその魔神達が、各々好き勝手に自然を貪り尽くし、『イルスフィア』を枯らしてしまった……というのが、『イルスフィア』の子供達が幼い頃より何度も聞かされる、昔話の顛末である。
その代わり、魔神は『アガスフィア』よりそれぞれ一つの種族を選び、その種族に魔神の『血統』の力を与えた。
これが現在まで続く血族制の始まりであり、七つの魔人の『血統』による、七つの大国が、『イルスフィア』の統治を行っているのである。
二つの『スフィア』の行き来には特殊な魔法が必要で、入念に儀式の準備を組み、安定した力場を探し出し、出入り口の座標を固定した上で、ようやく『スフィア』間の移動が可能とされている。
その手順を間違えれば、渡航者は『フォルスフィア』と呼ばれる世界の狭間から二度と戻って来れなくなるらしいが……生憎、私はそのような失敗をしたことはない。
私? 私の名前はミルドラド・ヌエツト・ヴリザベス。
“異世界航海士”の資格を持つ、異世界学では右に出るものが居ない、超一流の学者である。




