27.世界の終わりとおっさん―11
がはっ、と血を吐いたミノンの体から力が抜け落ちて、光の翼も消えて無くなる。
「“スフィアキー”は、『ベリアル』様が頂いていくぜ」
満月をバックに浮かんだのは、禍々しいシルエットだった。
空に浮かぶ赤毛の長髪の男。
その背中には歪な形状の黒い翼が生えていて、絶えずはためき男の体を支えている。
ミノンを貫いた腕は、途中から赤茶けた色に変わってゴツゴツと太くなり、先端には鋭い爪が生え揃っていた。
『傲慢』を司る『ベリアル』の血統。
竜化の力を持つ魔人の血族だとグルゥは認識していたが、それが何故この場にいるのか、グルゥには理解できなかった。
「貴様、ミノンをどうするつもりだッ!?」
「“躾”だよ。人をいきなり爆発に巻き込むような子には、ちゃあんとお仕置きをしてあげなきゃね」
意識を失ったミノンは、持たれかかるように赤毛の男に体を預けていた。
このままではいけないと――空に伸ばしたグルゥの手は、空を切るだけだ。
「おっと、『ベリアル』の血統ともあろう者が、名乗りを忘れていたとはね。俺は将軍、ウルヴァーサだ。じゃあな……『サタン』のおっさん」
ウルヴァーサは手を挙げると、それを合図に、何も無かったはずの虚空に巨大な“口”が現れる。
ドラゴンの頸部のようなそれは、大きく口を開けると、二人を一飲みして霧散していった。
今までそこに居たはずの二人の姿は無く、あるのはただ、ミノンを包んでいた緑色の光の名残だけだ。
「ミノ……ン……? ミノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!」
グルゥの叫びが、夜風を震わせ、闇の中に虚しくこだました。
この夜の一件は後に――“破壊神の炎と創造神の雨”として、アルゴ公国内のみならず他の公国、果てはジルヴァニア王国を揺るがすほどの大事件となるが。
失意の真っ只中にいるグルゥは、未だその動乱の予感に、気付かずにいるのだった。
第5章 復讐とおっさん
第1部 アガスティア動乱編 ―完―
突如として奪われたミノンと、彼が残した子守唄の謎。
その謎を解くために、グルゥは『イルスフィア』へ戻ることを決意する。
そこで出会う新たな仲間、そして異世界勇者の使命の真実とは――
NEXT → 第2部 イルスフィア騒乱編 ―開幕―




