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27.世界の終わりとおっさん―8

 全ての熱量を吐き出し尽くしたグルゥは、最後にチョロっ小さな炎を吐いて、ついにその活動を止めた。


 魔獣化した体が、少しずつ人型に戻っていく。

 隆起した筋肉は縮小を始め、黒い剛毛は細く柔らかい毛へと、元通りに戻っていく。


 鋭くいきり立った牙は小ぶりになり、手足の爪も人のサイズに戻っていく。

 獣と化した壊れた心も、痛みを感じる人の心へと、戻っていく。


「……あ…………あぁ…………ぁぁぁあああ……………………っ!!」


 気が付けば、眼下に広がる世界は炎に包まれて、多くの人々の呻き声が地鳴りのように響いていた。


 黒焦げになったキットが目を開けることはない。

 そっと胸に手を当てると、辛うじて微弱な鼓動を感じたが、手に張り付いた黒い煤を見て、グルゥは己のしでかした事の大きさに、ついに気付くのであった。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 犯した過ちが消えることはない。

 壊してしまった命が蘇ることはない。


 過ぎ去った刻が戻ることは、決してない。


「私は……私は、なんてことを…………ッ!!」


 決して『憤怒』に飲まれてはならないと、それは幼少の頃より言われていたことだった。

 だが『アガスフィア』に来て、徐々にその扱いにも慣れ、『サタン』の血統としての力を自覚した矢先。


 大切なものを目の前で壊されたグルゥにとって、それは未だかつて経験したことがない『憤怒』の熱量だったのだ。


 堪え切れない涙が、滝のように流れ、キットの体に零れ落ちる。

 結局、多くの人の大切なものを奪ったのは自分の方だったのだと――グルゥは自分の罪を自覚し、後悔し、絶望した。


 世界を破壊し尽くした自分が、このまま生きていて良いのか――グルゥの絶望は、自身の存在意義を問うまでに到達する。


「――大丈夫。パパはボクが守るから」

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