27.世界の終わりとおっさん―5
吐き出されていた熱線が止まる。
だがそれは、キットの言葉が届いたのではなく、自分に取り付いた何かを払おうとする、防衛本能が働いたせいだった。
しかしグルゥが胸元のキットを掴もうとした瞬間、その手がキットの尻尾に触れる。
「…………ゥゥ…………?」
どこかで触れたことがある感触――一瞬だけだが、その記憶がグルゥの理性を呼び戻そうとした。
だが、まだ駄目だ。
その記憶はすぐに『絶望』の奔流に流されて、頭の片隅へと追いやられてしまう。
「大丈夫……だから。オレは、分かってるから…………っ!」
熱線を照射し続けたグルゥの表皮は、焼かれた鉄板のように熱くなっていた。
グルゥにしがみつくキットの肌が焦げ、焼けた肉の臭いがグルゥの鼻腔をくすぐる。
それでも、キットはグルゥから離れようとはしなかった。
鬣を手で手繰り、熱を帯びたグルゥの口元に顔を近付けていくと――舌先で、親愛の情を込めペロペロと頬を舐める。
熱で焼け、ピンク色の舌先がすぐに黒く焦げていったが、それでもキットはグルゥを舐めることを止めなかった。
「親父が……世界中を敵に回しても……オレは親父が本当は優しいヤツだって、分かってるから……っ!」
キットの目から涙が溢れ出す。
それを見て、感情が無いはずの獣の目からも、熱い液体が零れていた。
「いいよ……親父のためなら、死んだって。それだけのものを、オレは親父から貰ったから。だけど……いつまでも親父がそんなんじゃ」
グルゥの大きな手が、そっとキットを捕まえて、床の上に降ろしていった。
黒焦げになったキットは、その姿を見て、ホッとしたように微笑む。
「安心して……眠れねぇじゃん…………大好き、だった、よ……お、や…………」
深く瞼を閉じるキット。
グルゥは咆哮した。
夜空に向かい、慟哭のような咆哮をした。
最大出力の熱線が、天に上る柱のように伸び、太陽が沈んだ世界を真昼のように照らしていく。




