3.賊・孤児とおっさん―11
グルゥはそのまま、若者の頭を巨大な顎で噛み砕こうとした。
「ダメだよ」
その間に割って入ったのは、キットだった。
「……何故、止める」
「何故って……おっさん言ってたじゃないか! 暴力はダメだって、それなのに、どうして今は平気で人を殺そうとするんだよ!?」
「コイツは、それだけのことをした。だから殺す、それまでだ」
「ダメだって……そりゃ、オレだってコイツのことは殺したいほど憎いよ! 死んだところで一ミリの涙すら流れやしない! それでもっ!!」
化け物になったグルゥを前にして、体の震えが止まらないキットだったが、それでも――
「ダメなんだって!! おっさんが、そんなことをするのは!! ……優しかったおっさんは、何処に行っちまったんだよ? オレはこれからまた、何を信じていけば、いいんだよぉ……」
それでもキットは、まだ信じられなかった。
怒り狂うグルゥが、自分を抱き締めてくれたグルゥの本当の姿だということを。
泣きながら懇願するキットを前に、若者の頭を掴むグルゥの手が、僅かに緩んだ。
「騙してすまなかった、キット。これが私の本当の姿なのだ。私は『憤怒』の大罪を司る、『サタン』の血統の魔人なのだよ。私の怒りが頂点に達したとき、私に流れる血は始祖の姿を呼び醒ましてしまうのだ」
「…………それじゃあ、やっぱり、違うじゃんか」
そうだ、人型の形態はあくまで仮初めの姿で、これが私の本性なのだ。
純粋無垢なキットを騙した罪悪感が、チクリとまだ善意が残っている胸の片隅を突き刺したが、その痛みも、すぐに『憤怒』の炎に焼き尽くされていった。




