26.続々・復讐とおっさん―7
「その程度の熱か。大したことないな」
ゴブリンドラグーンの頭を前にして、グルゥはボキボキと組み合わせた拳の骨を鳴らす。
千切れかけた右腕の再生も既に完了していて、あとはたった一つ、作業をこなすだけだ。
「がぁッ、な、何なんだ、お前はぁ……っ!!」
「さっきも言っただろう。私はこの子の、“親父”だッ!!」
渾身のアッパーが、ゴブリンドラグーンの顎の下を直撃していた。
打ち上げられたゴブリンドラグーンは、空中で錐揉み回転をし、ゆうに十秒以上空中を舞ってから、最上階へと落下してくる。
衝撃でガレキを崩すわけにはいかないと、グルゥはその巨体を片手で受け止めると、何もない方向へ静かに転がすのだった。
突如としてアルゴ公が変貌したゴブリンドラグーンを退治した、名も知らぬ魔人の活躍。
それを目の当たりにした観衆は一斉に沸き立ち、グルゥに向けて精一杯の歓声を送る。
『な、なんということでしょう……! 人間への差別を認めたアルゴ公ですが、たった今、公開処刑を止めにきた魔人によって倒されてしまったようです!! これはどういうことなのでしょう!? 我々にはまったく事情は分かりません、分かりませんが――』
これまでも実況を続けていたバルーン船のキャスターが、その言葉を口にしていいのか、一瞬躊躇する姿勢を見せたが。
ゴクリと唾を飲み込むと、朗々たる口調で、その言葉を伝えるのだった。
『私には……彼がヒーローのように見えますッ!! 幼い子供を人質取った異世界勇者や、恐ろしい術で変貌を果たした公爵より、よほど“勇者”であるように見えるのですッ!!』
しかし人々の歓声などグルゥの耳にはまったく入っておらず、懸命に救助活動を続けていた。
ガレキの下から掘り起こしたキットは酷い怪我を負っていて、意識もはっきりとしない状態が続いている。
長い間圧迫されたためか、体の左半身が紫色に鬱血していた。
腕を取り脈を取ってみるが、反応はない。
呼吸もロクにしていないようだった。




