26.続々・復讐とおっさん―4
キットの体からは血が流れ出していた。
恐らくは、かすり傷程度で済まない大きな傷を負っている。
早く救助しなければ、キットは助からない。
それなのに――
「まずは手始めに……私の人生を狂わせた魔人、貴様から始末してやるッ!!」
ゴブリンドラグーンが動こうとした瞬間に、ガレキが崩れかけ、下敷きになったキットが押し潰される危険性があった。
グルゥは走っていた。
今、キットを助けることが出来なければ、ここまでの旅路が全て無駄になってしまうと。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
ゴブリンドラグーンが踏み出した足の下に辛うじて滑り込み、グルゥはその足を両手で受け止める。
予想外の行動にゴブリンドラグーンは驚いたようだが、すぐにガレキの下のキットの存在に気付いたようだった。
「グハハ……!! 娘を守るために、無防備な姿を晒すか、魔人よ」
「やめろ……この足を引っ込めるんだ!! 狙うなら、私だけを狙えばいいだろう!!」
グルゥの言葉に、ゴブリンドラグーンは大きく口を開け、威嚇するように大音量をグルゥの耳元で鳴らした。
衝撃で頭の奥底までが揺れ、グルゥの体から力が抜ける。
数センチ、ほんの数センチずつだが、ゴブリンドラグーンの足が床にまで近付いていった。
「貴様は私の守ってきたものを全て台無しにしたのだ。ならば、貴様の大事なものを奪って何の罪になる?」
「言っても分からぬと、言うのなら……!!」
グルゥの目の奥に、『憤怒』の炎が灯る。
全身に剛毛が生え、その体が魔獣化を始めた――その時だった。
ゴブリンドラグーンの鋭い牙が、グルゥの右腕に深々と突き刺さった。




