25.続・復讐とおっさん―2
ふっ、と腕の中からアキトの体が消えた。
突然のことに驚きを隠し切れないグルゥ。
慌てて周囲に目をやると、磔になったキットの横で、アキトは胸を押さえてうずくまっていた。
「サン……キュ。マリモ先輩。ギリギリのトコで……声が聞こえたわ」
アキトは“瞬間移動”を唱えていた。
もはや声など出ないと思っていたが、それでもなお、搾り出すように、何とかその呪文を口にすることが出来たのだ。
それはマリモとの問答の最中、グルゥの意識が僅かに逸れていたことも関係しているのだろう。
「チートスペル、“完全回復”」
見る見るうちにアキトの傷が回復していく。
グルゥはその姿を見て絶望し、強く屋上を殴った。
「戦いは、避けられぬというのか……!!」
「ハ、ハハ……悪ぃんだけどさ。俺にも意地ってモンがあるんだわ。こんだけカメラを呼んでおいて、おっさんに絞め殺されるなんて、そんなの笑い話にもなりゃしねー」
アキトは剣を拾い上げると、その切っ先をキットに突きつける。
「貴様ッ……!?」
「公開処刑ショー……やらねーとな。ここの街の連中は、それを期待して今モニターを見てるんだぜ? ほら、聞こえるだろ、声が」
いつの間にかサグレスタワーの周囲には黒山の人だかりが出来ていて、彼らは勇者対魔王の一部始終を、まるでショーでも見るかのように楽しんでいるようだ。
「キットに手を出すなッ!!」
「そうだ……処刑されるのはこのガキじゃない……グルゥ、お前だよ」
キットに剣を突きつけたまま、アキトは顎で指示を出す。
「撃てよ、マリモ先輩。……その魔人の心臓を、一撃で仕留めるんだ」




