24.復讐とおっさん―10
グルゥは自分を不甲斐なく思った。
あれだけのことを言いながら、結局は、何一つアキトの心を動かすことは出来なかった。
「はな……ぐ……っ、チートスペ――」
アキトが例の呪文を唱えようとした瞬間、グルゥはさらにアキトを締め付ける腕に力を込めた。
当然、肺を含む内蔵が圧迫され、アキトは声を出すことすらままならなくなる。
「…………あ………………」
チートスペルはその名の通り、『七七七つの特殊能力』を発動させるための呪文であった。
そして、その呪文を唱えられないのであれば、アキトはチートスキルを使うことが出来ない。
呼吸すらも出来なくなって、アキトは白目を剥き、泡を吹いて失神した。
だが、まだだ。
まだグルゥは、アキトを捕まえたまま力を緩めようとしない。
(こうするしか……なかったのだ……!!)
これが最後の一押しだと。
グルゥは全身の筋肉を使い、アキトの体をさらに圧縮した。
バキバキと複数の骨が折れる音がして、アキトが吹いていた泡に赤いものが混じる。
それでもまだ――アキトの心臓の鼓動を、肌を通して感じることが出来る。
まだ、まだ力を抜くことは出来ないと。
グルゥはアキトの心臓の動きが止まるまで――その腕で、胸で、全身で、アキトの命そのものを、受け止めるつもりだった。
「お願い……だから」
風に乗って、彼女の声が届く。
「お願いだからっ……もうやめてよぉっ!!」
サグレスタワーの屋上まで駆けつけたマリモが、肩で息をしながら、光の弓をグルゥに向けていた。




