23.タイムリミットとおっさん―13
慌ててグルゥに駆け寄り、その体を支えるサリエラ。
「い、いけませんお父様っ! 一時的な感情に飲まれては、本当に命が尽きることになりますっ!」
「それが……どうした。キットを守るためなら、自分の命なんてどうとでも――」
「残された私……私たちのことは、どうでもいいと言うのですかっ!?」
目にいっぱい涙を溜めたサリエラを見て、グルゥはハッとした。
「それに……今ここでお父様が死んでしまったら、本当にキットを助けられる人がいなくなります。落ち着いて考えてください」
サリエラに窘められ、『憤怒』で荒れ狂っていたグルゥの心に、僅かな思考の隙間が生まれた。
(そう……か。もしここで私が倒れてしまったら、恐らくはサリエラもミノンも、あの異世界勇者に――)
考えるだけで腸が煮えくり返るような思いだったが、数多くのチートスペルを使いこなすアキトと戦えば、サリエラもミノンも無事では済まないだろう。
「ふーん。おっさんと違って、お前は煽り耐性あるんだな。つまんねーの」
そう言って、アキトはわざとらしく手を振った。
「じゃ、バイバイ。俺の愛するおっさん。今晩十二時の屋上デート、期待して待ってるぜ? 一秒でも遅れたなら、その時は――」
キットの頚動脈に親指を当て、アキトは首を掻き切る仕草をする。
「チートスペル、“瞬間移動”」
それを最後に、アキトとキットの姿はその場から忽然と消えてしまった。
糸が切れたように、グルゥはその場に突っ伏して激しく痙攣する。
「お父様っ!? す、凄い熱です。今、私が冷やしますから」
サリエラはグルゥの頭を膝の上に乗せると、両手に溜めた魔力で、少しずつ熱を持った体を冷却していく。
「す、すまない、サリエラ……」
サリエラに体を預け、とっくに限界を迎えていたグルゥは静かに目を閉じる。
あれだけ嫌いだった氷が、今は無性に優しく、むしろ温かいもの感じられた。




