3.賊・孤児とおっさん―7
「私は……怒っているんだ」
静かな口調だが、確かに怒りを――『憤怒』を感じさせる、グルゥの震え声。
「だ……だから、なんだよ。こっちだって、とっくにキレてんだ――」
「早く……逃げた方がいい。これ以上、私の怒りに触れたくないのなら」
「だから、なんだってんだよ!? 今さら、そんな脅しが通用するわけねーだろーが、経理のおっさんがッ!!」
ついに若者の一人が、グルゥの言葉に痺れを切らし、剣を携え斬りかかっていった。
それが、『憤怒』の時間の始まりだった。
「私は……ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァアアアアアアアッ!! 怒ってッ!! いるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!」
怒り方が分からない子供が、自身の感情を持て余して地団太を踏むように。
グルゥのあげた行き場のない咆哮は、森の木々を――そして大地を揺るがすほどの、大きな衝撃派となる。
「う、うわ、なんだコイツ――」
その勢いに足を止めた若者だが、次の瞬間には、牙を剥き出しにしたグルゥが目前に迫っていた。
「は――?」
なんてことはない。
猪突猛進に走り出したグルゥによる、単なる体当たりである。
それでも、直撃を受けた若者はそのベクトルに十メートル以上は吹き飛び、細い木に衝突し、その木をへし折って更に二十メートルは後ろに飛び、障害物を打ち砕く肉の弾丸となって、見えないところまで飛んでいった。




