23.タイムリミットとおっさん―8
キットを路地の上に寝かせたケンロウは、うずくまったまま動けないグルゥの下に近寄った。
そして右手で煙草を持つと、グルゥの頭の布を剥がし、その火を黒角に押し当てて消す。
種族の誇りをコケにするような行為――グルゥの胸の中に『憤怒』が生まれ広がるが、同時に意識を保てなくなるほどの痛みが全身を駆け巡る。
「ぐあ、ぁぁぁぁぁあああ……っ!!」
「ハハッ、そうカッカすんなって。じきに楽になる」
ケンロウはグルゥの折れた角の根元を掴むと、強引に顔を上げさせた。
左手から生み出したのは、小指の爪ほどの大きさの水色の錠剤だ。
「おら、解毒剤だ。味わって飲めよ。……って、もう口を開けることすらままならねぇか」
虚ろな目をして涎を垂れ流すグルゥに、ケンロウは顎関節を掴んで強引に口を開けさせると、その中に左手を捻じ込んだ。
苦しさと屈辱で涙が溢れそうになる。
キットを連れ去ろうとしている男に、こんな形で施しを受けるとは。
グルゥの喉の奥に強引に薬を入れたケンロウ。
吐き気を催したグルゥはウッとえずいたが、薬がちゃんと飲み込まれるまで、ケンロウはグルゥの口内を支配し続けた。
その後引き抜かれた手は、グルゥの口の中に残っていた血で真っ赤に染まっていた。
「おーおー、汚ぇなぁおっさん。後でよーく洗っとかなきゃな」
ケンロウは手の汚れをグルゥの髪に擦り付けると、皮肉げな笑みを浮かべながら、新たな煙草に火を付けつつその場を後にする。
――その足首を、地を這うグルゥはしっかりと捕まえた。




