23.タイムリミットとおっさん―7
「嫌……だ。もう二度と私は、あんな思いを……っ!!」
体に鞭を打ち、どうにか立ち上がろうとするグルゥ。
全身をはしる痛みは徐々に体の中心部へと迫っていき、そして、ついに心臓へと――
「分かった」
その時だった。
キットが、何かを決意したようにその言葉を発したのは。
「……何を言っているんだ? キット……」
「オレ……ケンロウの言うことを聞くよ。だからさ、お願いだよ」
キットは自身を抱くケンロウの腕をぎゅっと掴み、弱々しい声で呟いた。
「親父を……助けてくれよっ……! オレが我慢して済むことなら……それで、いいからさ……っ!!」
衝撃だった。
黒いカーテンが引かれたように、目の前が真っ暗になる。
キットが、自分以外の男に付いていこうとする選択肢を取るとは。
「いいんだな? お前は盗賊団に戻り、また俺と一緒に生活をするんだ」
「分かってるよッ!! ……分かってるから、早く親父を助けてくれ。解毒剤を、親父に……」
ケンロウの右手がキットの口と鼻にあてがわれる。
その瞬間、キットの意識は一瞬でなくなり、倒れかけたキットをケンロウは慌てて抱えた。
「……だ、そうだ。親父思いの良い娘を持ったな、おっさん」
ニヤリと笑みを浮かべて、ケンロウは勝ち誇るように煙草の煙を吐き出した。
「だがそれも、今日から俺のものだ」




