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23.タイムリミットとおっさん―6
娘が――奪われる。
グルゥの脳裏に浮かんだのは、最愛の娘であったノニムを連れ去っていく、アキトの後ろ姿だ。
あの時と同じように――今、この場で娘を奪われようとしている。
「あが……が、がぁぁぁぁ……ッ!!」
言うことを聞かない体に無理を言わせ、グルゥは何とか立ち上がろうとした。
だが、駄目だ。
その丸太のように太い脚も、今はただ崩れかけの橋のように、自身の体重を支える術さえ持たない。
再び膝をついて吐血するグルゥ。
怒れば怒るほど、鼓動が激しくなればなるほど、全身に毒が回り意識が朦朧としていくのを感じた。
「無駄な抵抗はやめとけって。下手に動けば死期を早めるだけだ」
「な……っ!」
「タイムリミットは一時間ってとこか、このまま放置しておけばな」
ケンロウが下した死刑宣告に、キットの表情は引き攣って、涙混じりの目でグルゥを見つめていた。
娘を、悲しませている。
自分が不甲斐ないばかりに、娘に辛い思いをさせている。
思考が回らなくなってきたグルゥには、キットの姿がノニムと重なって見えるようになっていた。




