23.タイムリミットとおっさん―5
「そ、そんな……! 頼むよケンロウ、親父を助けてくれよっ!!」
キットは涙目になり、ケンロウに縋る。
ケンロウはその様子を、実に気持ち良さそうに、ぷかぷかと煙草を吸いながら見ていた。
「何が……目的なんだ?」
脂汗をだらだらと流しながら、グルゥはケンロウに尋ねた。
「お前の命。…………には、正直別に興味ねぇんだ。俺自身には、お前を殺せなんて命令は下りてねーしな。俺みたいな雇われのサラリーマンに、公爵様がわざわざ懸賞金を払うとも思えねーし。俺がお前を殺したら、アキトから文句を言われちまう」
そう言って、一人で笑うケンロウ。
「じゃ、じゃあ親父を助けてくれるのか? 命を取らないっていうのなら――」
「ああ、大丈夫だ。そんな不安そうな顔をすんなよ、キット」
そう言って、ケンロウはフードの上からキットの頭に手を当てた。
それを見た瞬簡に、グルゥは自身の心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「だからな……俺の娘になれ」
ケンロウの言葉を聞いた瞬間に、グルゥ、そしてキットは、言葉も出せないほどの衝撃を受けた。
「…………え……?」
「正直に言えばな、キット。俺は相当、お前のことを高く買ってたんだぜ? 手先の器用さや俊敏性、お前にゃあ盗賊としての素質があった。年の割にはリーダーシップもあったし、将来的にはウチの組織の幹部になると思ってたんだ」
キットの体をくるっと反転させたケンロウは、その細身を抱えるように後ろから手を回す。
キットは放心状態で、されるがままケンロウに捕まっていた。




