22.親父とおっさん―10
「ハハッ、気付くのが遅いんだよ。やっぱおっさんだわ、あんた」
そう言って、皮肉げに笑ったケンロウは煙草の煙を口と鼻から吐いた。
ケンロウの動きのキレが増していたのではない。
グルゥの動きが、知らず知らずのうちに鈍くなっていたのだ。
「……その煙が、仕掛けだったのだな」
紫煙をくすらすケンロウ。
んーっ? と惚けて見せた後、グルゥを指で差す。
「ビンゴォ! でも驚いたぜ、煙を吸った後でもあんな動けるんだからな。毒が回るまでに相当な時間がかかったわ、やっぱ経口毒は信用しちゃいけねーな」
油断していた。
まさか名乗るところから、戦いが始まっていたとは。
「やめろケンロウ!! これ以上、親父に手を出すな!!」
両手を広げたキットが、グルゥの前に進み出た。
「かーっ、泣かせるねぇ! 親を守るため体を張る、親子の絆ってか。いいねぇ、俺はそういうお涙頂戴のヒューマンドラマが大好きなんだ。だが――」
ビュンッと、これまでにないスピードで針を投げたケンロウ。
その一本はキットの顔の真横を通り過ぎ、グルゥの右肩に深く突き刺さった。
「その男はもうじき死ぬ。俺のチートスキル『完全なる殺人』でな」
針が刺さった箇所から、気が狂いそうになるほどの痛みと、熱が発生してきた。
グルゥは唸るような声を漏らしたが、今はその痛みよりも、ケンロウが言った言葉が気になっていた。
「チートスキル……だと……!?」
アキトが使っていた言葉と同じものだ。
まさか――そう問いかける前に、ケンロウは自らぶっちゃける。
「そうだぜ。俺も“異世界勇者”だ。それも、七年前の勇者戦争の生き残りのな」
ケンロウの明かした事実は、どんな毒よりも効果的に、グルゥの思考を停止させるのだった。




