22.親父とおっさん―8
嫌な予感がした。
あえて、とケンロウは言ったのだ。
アルゴ公はまったく分かっていないようだが、要はケンロウは、襲撃者を釣るための囮としてアルゴ公を利用していたのである。
そして恐らく――このアルゴ公は、本物の公爵ではない。
「この男は……影武者だったというわけか」
「影武者? いやいや、だったらもっと話は早いよ。……傀儡だ。アルゴ公には特殊な事情があってね、公には顔を出せないから、こうして代理の人間に自分のフリをさせてるんだよ」
徐々に、グルゥは自分の置かれた状況を理解し始めていた。
捕まえたアルゴ公は、ただの偽者だったこと。
その偽者を扱うケンロウによって、まんまとここに誘き出されたこと。
そして――恐らくケンロウは――
「そんな話を……私にして良いのか? 国家機密だろうに」
「ハハッ。んな回りくどいこと言ってんじゃねぇよ」
ポケットから手を抜いたケンロウの指に挟まっていたのは、鋭く尖った黒い針であった。
「オメーはここで死ぬんだ。キットも育ての親である俺に、返してもらうぜ」
針を投げつけるケンロウ。
グルゥはそれを拳で叩き落すと、真っ向からケンロウに向かっていく。
「おいおい!? どんだけ硬い拳をしてんだ!?」
「生憎、体の頑強さだけが取り柄でなっ!!」
拳を振るうグルゥだが、さすがは盗賊団の団長というだけのことはあり、機敏に動くケンロウになかなか一撃は命中しなかった。




