22.親父とおっさん―7
「知り合いなのか、キット」
「知り合いも何も……忘れるわけないよなぁ? 俺がどれだけ、手塩をかけてお前に人の殺し方を教えてきたか」
一歩、一歩と近付いてくる男に、キットは脅えてグルゥの陰に隠れてしまう。
キットを守るようにグルゥは立ちはだかったが、男は胸板がぶつかる至近距離までグルゥに近付くと、眉間に皺を寄せメンチを切った。
「俺の名はケンロウだ。よろしくどーも」
「……グルゥだ。あまり仲良くは、なれそうにないがな」
ケンロウが吐き出す煙草の煙をもろに浴び、グルゥは顔をしかめた。
「親父……じゃなくて、ケンロウは話が通じる相手じゃない。逃げた方がいいよ、親父」
「おいおい、何で言い換えるんだよ、つれねぇなぁキット。俺のことが嫌いになっちまったのか? んでこの男に乗り換え? とんでもねぇ淫売じゃねーか」
「キットを侮辱するようなことは言うな。私が許さない」
グルゥに睨まれて、ケンロウは肩をすくめてすごすごと引き下がる。
その様子に、グルゥは若干肩透かしを食らったような気分だった。
「気をつけて。ケンロウは、オレがいた盗賊団の団長なんだ。その性格は執念深くて……一度狙った獲物は死ぬまで追い続ける、“蛇のケンロウ”って二つ名を聞いたことがある」
「その割には、妙に聞き分けの良い態度を取っているが」
ケンロウは両手をズボンのポケットに突っ込んで、だるそうにグルゥを見ていた。
「お、おい! なんで下がるんだ、私を助けてくれないのか、ケンロウ!?」
「助ける? ……ハッ、ちゃんちゃらおかしくて笑っちまうぜ。何のために、ここ最近あえて護衛を外れていたのか、お前はなーんも分かっちゃいねーんだ」
そう言って、ケンロウは煙草を咥えたまま皮肉げに笑う。




