22.親父とおっさん―2
そしてもちろん――夕暮れ時、二人だけがサグレスの街中に出ているのには理由があった。
五角形型のサグレスの街は、主に北の区画に富裕層が住んでいて、南部に行くほど貧しい人間が多く、治安も悪い。
だが北東の区画には、そのどちらにも属さない、特殊な賑わいを見せる箇所があった。
「おっきなおじさん、そんなとこに突っ立ってないでウチの店に来ない?」
後ろから声を掛けられて、グルゥは渋い顔をしながら振り向いた。
そこには、まだあどけなさの残る顔に精一杯の化粧をした少女が、ニコッと微笑みながら立っている。
その作り笑顔を見るだけで、グルゥは胸がチクリと痛むのを感じるのだった。
「他を当たってくれないか。私には今、やるべきことがあるのだ」
「そういうことなら、私の店の前にずっと立ってないでよ! 店の人間かと思われて、他の客が来なくなっちゃうじゃん!」
少女に怒られて、グルゥは何とも言い返すことが出来ず、ただその場を移動していった。
「十七歳くらいか」
「そうだぜ。この街じゃ、身寄りのない娘はあんな風に客を取るよう教え込まれるんだ。中にはここに来ることを目当てにしているような観光客もいる。酷い街だろ」
「ああ。最低だ」
それも全て、拝金主義のアルゴ公の意向により行われているのだろう。
アルゴ公と会った際には、捕まえた魔人の行き先について問いただすつもりだったが、公国の在り方についても一言申してやりたい気分だった。
「待って、親父。……アレだ」
そう言ってキットが指を差した先は、でっぷりと太った中年男が、何人もの少女に見送られながら店を出て来たところだった。




