22.親父とおっさん―1
アルゴ公国の首都である“サグレス”。
五角形を象った街の敷地は、他者の侵入を拒むように塀で囲まれていた。
だが、その塀の外からでも見ることが出来る、サグレスの象徴“サグレスタワー”。
かつてはアルゴ公の住まう城だったのだが、フォルの応用技術が格段に飛躍していくのと共に、いつしかその形はビルへと変貌していた。
「あの最上階に……アルゴ公はいるというわけだな」
深くフードを被ったグルゥが聞くと、同じようにフードで顔を隠したキットが力強く頷く。
助けた刺客の思わぬ助言と、サグレスの構造を熟知したキットの手配により、サグレスの街に入ることは容易であった。
スラムと化した街の南部には、いちいち検閲を受けることなく自由に出入りするための、秘密の出入り口があったからだ。
話では、公には出来ないようなものを輸出入する際の出入り口として、公国側もその存在を知りつつ利用することがあるらしい。
その一つが、キットが所属していた盗賊団だ。
「しかし……本当に凄い街だな、ここは。『イルスフィア』には、このような四角い箱が立ち並ぶ街など存在しないぞ」
「ビルっていうんだよ、親父」
物陰に身を隠しながら、グルゥは発展したサグレスの街並みを見て、ただ目を丸くするばかりだった。
『それでは、次のニュースです。ジルヴァニア王国からの特使が本日来訪し、公爵との話し合いの場が持たれました。その内容は、主にフォルの利用方法についてで――』
「な、なんだあの巨人は!? 箱の中に入っているのか!?」
「モニターっていうんだよ、親父。そんな、田舎っぺな反応しなくても……」
グルゥが指差したのは、サグレスタワーに掲示されている巨大な映像投射機のことである。
今まで野生児だと思っていたキットが、意外と都会っ子だったことを知って、グルゥは何となくショックを受けるのだった。




