3.賊・孤児とおっさん―5
『やめて……もうパパをいじめないで!!』
鼓膜に張り付いて離れない声がある。
網膜に焼き付いて消えない光景がある。
「どう、して……ノニム、が……?」
朦朧とする意識の中、グルゥはその光景を不思議に思っていた。
どうして奪われたはずの娘が、またこうして、自分のために身を挺して守ってくれているのかと。
「ああ、そう、か……」
きっとここはあの世で、あの日、異世界から来た勇者に殺された妻と、これから失われた時間を埋めていくのだと。
そんな穏やかな時間は――自分にはまだいらない、まだ、やるべきことがあるのだと。
グルゥはそう、はっきりと自覚した。
やめろ――離せ――巨漢に後ろから捕まり、身動きも取れず暴れまわるキットの叫び声が、耳に突き刺さる。
それはまるで、あの日、異世界勇者に連れ去れた、最愛の娘の姿を見ているようだった。
「最終通告はしたつもりだ」
ついに身を起こしたグルゥに対し、若者達と巨漢は、ギョッとしてお互いの顔を見合わせていた。
「それなのに……なんだ? この光景は」
地面の上には、若者達に殴り飛ばされ、動けなくなった子供たちが転がっていた。
みな一様に、痛む部分を押さえて、しくしくと涙を流し、泣いている。
なんて酷い光景だ――心臓が鼓動を繰り返すたびに、血液と共に怒りの感情がグルゥの全身へと送り出され、グルゥは頭の両脇を押さえる、
巨漢に捕まったままのキットは、グルゥの復活に一瞬は嬉しそうな表情を浮かべたが。
――その顔は、徐々に曇り、引き攣っていった。




