21.お父様とおっさん―7
「ああ、そうだよ。俺はアルゴ公に差し向けられた、お前の命を狙うための刺客ってわけだ。どうだ? これで満足か? 分かったなら、煮るなり焼くなり好きにしろよ」
そう言って、三角座りのまま、男はふて腐れたようにそっぽを向いた。
「ほう……? 言うじゃないか。ならば、望み通り殺してやろう」
グルゥはそれを聞いて、邪悪な笑みを浮かべると――テーピングしたばかりの足首に、一発大きなデコピンを食らわせる。
「うぎゃあああああああああああああああああっ!?」
「そういう大人びたことは、大人になってから言え。お前はまだ私に何かをしたわけじゃない。未来ある若者に対し、無碍な行いをするつもりもない」
そう言って、グルゥは男の頭を乱暴に撫で回した。
「な、なにを……っ!?」
「お前は、たった今ここで“死んだ”。……そういうことにして、一からやり直すといい。見たところお前は純朴そうだ、真っ当な仕事にだって就けるだろう」
グルゥの言葉を聞いて、男は今にも泣き出しそうな、だけどそれを必死に堪えるような――複雑な表情になった。
「お前に何が分かるんだ。サグレスのスラムで生まれた人間には、初めから選択の余地なんてないんだ。たとえ外に出たところで、いつ、過去の仲間が裏切り者の粛清に来るか、それに怯えながら暮らさなきゃならない」
「だから、お前は今ここで死んだんだ。それとも、生きて戻ってもう一度今の暮らしに戻りたいのか? それでお前は、本当に自分の人生を生きていると言えるのか?」
グルゥの問いかけに答えることが出来ず、男はついに、嗚咽の声を漏らした。
グルゥは何も言わず、ただ男の背中を優しくさすってやる。
「……ちょっと、朝のお散歩に行きましょうか」
「え、でも――」
気を遣ったサリエラは、キットとミノンを連れて、部屋の外へと出て行った。




