21.お父様とおっさん―5
「……で、コイツは何なんだ」
音の正体を確かめに外に出たグルゥは、憮然とした表情で指を差す。
黒装束を身に纏った男が、宿の外で引っくり返ってピクピクと痙攣をしていた。
恐らくは二階から転落したのだろう、足首が変な方向に折れ曲がっていて、相当痛そうだった。
「ふ、不適切だぞ!! その年の差で、何をしようとしていたんだお前ら!!」
男は根性で上半身を起こすと、グルゥとサリエラを交互に指差し、二人の行いを批難した。
そう言われるとぐぅの音も出ないと、グルゥはしゅんとしょげ返ってしまう。
だが、
「何をしようとしていた、というのは……こちらのセリフでもあるのだが?」
グルゥは男の懐に乱暴に手を突っ込む。
案の定、そこからは一本のダガーが出て来た。
「こんな物騒なモノを持って、私の部屋への侵入を窺っていたとは……ちゃあんと、理由を説明してくれるよな?」
あの時感じた殺気はサリエラではなくこの若者だったのかと、今になってグルゥは気が付いた。
「ヒ、ヒィッ!! や、やはり魔人め……残忍かつ色欲に満ちているとは、本当だったんだな!!」
お前に言われたくないわ!! とつい右ストレートを繰り出してしまうグルゥ。
その一撃で、襲撃者らしき男は完全にノックアウトされてしまった。
「ちょっとお父様!? ここはしっかり、情報を聞き出さなきゃいけないところですよ!?」
「す、すまん。あまりにも人聞きの悪いことを言われたもので、つい」
カッとなってしまったことをグルゥは反省する。
するとそこに、騒ぎを聞きつけたキットとミノンも、眠い目を擦りながらやってきた。
「何の騒ぎだよ、親父……。……って、あれ? なんで盗賊のヤツが、こんなとこにいんの?」
男の正体は、意外なところから判明した。




