###謁見にて###―1
手足を縄で縛られ、口には布を詰め込まれた少女。
その頭には猫のような耳がついており、ズボンに開けられた専用の穴からは、黒い尻尾が突き出ていた。
だが少女の感情を表すように、萎びた尻尾は垂れ下がり、耳もぺたりと垂れている。
脅える目にこんもりと溜まった涙は、今にも零れ落ちそうだった。
「ほらよ。これが今回の戦利品だぜ」
アキトは首輪を引っ張って、その『マモン』の少女を前に差し出す。
黒革のソファーの上には、一人の男が足を組んで座っていた。
「うむ、よくやった。すぐに王国へと回し、“ポイント”に換算するよう手配しよう」
ダストン・アルゴ公爵。
ジルヴァニア王国を形成する公国の一つである、アルゴ公国を支配する権力者である。
ダストンには、他国へはフォルの輸出や貿易政策で良い顔をする一方、自国の人間、特に金を持たない貧しい人々は奴隷のように扱うなど、表と裏の顔に乖離があるという評判があった。
「さっさと回してくれよ。でないと俺、なかなかレベルアップ出来ないんだわ」
「当たり前だろう。異世界勇者の活躍は、今や国の躍進に欠かせないものとなっている。君がこの“勇者戦争”で勝ってくれれば、この国の将来も安泰というわけだ」
そう言って、静かにほくそ笑むダストン。
その黒い笑みに、アキトは内心反吐が出そうな思いだった。
(なーにカマトトぶってんだよ。お前の真の目的は“王国”、その奪取だろ)
だが、もしもそれを達成出来れば、いよいよこの世界も自分のものになると――アキト自身も、ダストンの野望に対してはやぶさかではなかった。
「他国の勇者の様子はどうなってる」
「心配するな、ポイントではダントツで君がリードをしているよ。君のような勇者に当たることが出来て、私も鼻が高いよ」
そうかい、とアキトはその言葉については話半分で受け取っておくことにした。
「ところで、君に特別に頼みたいことがあるんだが――」




